5/8 土曜日。晴れ。
昼ごろにわたしが吉祥寺の図書館でしこしこ小説の資料をあさっていると、「ピロピロ」とPHSが鳴りました。出てみると、常務=カメラマン=野田からでした。

野田 「田原ー、暇? 今おれ代々木公園にいるんだけどさ」
田原 「なにしてんのー、そんなとこで?」
野田 「いや、今日と明日ここで『タイフードフェスティバル』をやっててさ、タイラーメン
が食えるから、『東京メンクイ党』の取材になると思ったんだ!」
田原 「……なんでそんな重要なことを当日に言うの? それじゃ、みんな集まんないじゃ
ん?」
野田 「いや、暇そうな奴だけ来ればいいかなあって。おれは明日も来るけど、どう?」
田原 「……今晩みんなに連絡して、明日みんなで行こうよ……」

5/9 日曜日。小雨。
でも結局、「暇そうな奴」は社員のなかでわたしだけであり、午後一時過ぎに独りでのこのこと代々木公園に行きました。
野田は朝の十時に開場するとすぐ場内に入り、テントの下のテーブル席を陣どっていました。
(そのまま濡れずにずっと坐って飲み食いできたので、たいへんありがたかったです)
それからは、ひたすらぐびぐびぐびとビールを呑みはじめ、

●『ビール・チャーン』(缶ビール。象マークが目印)
●『シンハー・ビール』(これは有名。タイではチャンよりちょっと高級らしい)を4時間ほど呑みつづけました。
15本くらい呑んだか? チャーンのほうはあっさりしていてドライ系のビールのようで、シンハーはやっぱりこくがあって美味かったです。
食べたつまみは、
●『グリーン・カレー』
●『なんだかよくわかんない肉がはさんであるパン』(←名称を調べる気がない)
●『エビを揚げてパクチーをぶっかけたやつ』(←同じく) などでした。

『なんだかよくわかんない肉がはさんであるパン』は、ほんとうに『なんだかよくわかんない肉がはさんであり』、どう味わっても明らかに鶏肉でも豚肉でも牛肉でもなく、「イ×の肉だ!」ということに決定しました。(←グリーンピースに怒られる発言)

『エビを揚げてパクチーをぶっかけたやつ』は、丸ごと一匹のエビが衣も少なく、からり&あっさりと揚げてあり、それにパクチーの香りが絶妙に合っておりました。
わたしはパクチー好きなので、山盛りにかかっていてもよかったくらい。しかしなんといってもよいつまみになったのは、『タイ・カレーのグリーン・カレー』で、ふつうレストランや家で食べるカレーは「絶望的に酒に合わない」のだけれど、こいつはビールのつまみに最高で、具に入っていた茄子や鶏肉だけで何杯もいけました。焼酎やジンでもいけるかも、と思ったくらい。ぱさぱさのタイ米に実によく合うんだこれが。

小雨の降るなかにもかかわらず、代々木公園のなかはたいへんな人出で、ちょっと驚くくらい女性の姿が多かったです。見た目、だいたい七割は女の人でした。お年寄りは少なかったですが、子供連れもちらほら見かけたし、わりと人種もばらばらでした。
ビールは缶も壜も300円程度で、つまみも500円以上するものはほとんどなく、
「なんてリーズナブルな!」
と驚くくらいの安さでした。野田の話によると、タイの大使館が主宰しているらしい、とのこと。
ほーう、なるほどねえ。アホウな広告代理店が入ったつまらないイベントなどもなく、訪れた人はみな貪るようにただただ飲み食いしており、たいへんのどかな光景でした。

さてさて、東京メンクイ党としては、そろそろタイラーメンを食わねばならぬ。
結局食べたのは以下の三つ。

●『タイ風ラーメン』
●『牛筋煮こみラーメン』
●『アヒルのスープ・ビーフン』

三つとも麺自体は似ていて、透明感のある細い麺、どうやら米でできているらしく、「ソーメンとかソーキソバの麺みたい」でした。
はっきり言って麺に対するこだわりは皆無に等しく、香りもなければこしもありゃしない。
しかしながら、これが濃厚なスープにからまると主張しないでいい感じ。
するするぐいぐい食べられて、日本の「一杯で満腹する」ラーメンは絶対に「酒のつまみにならない」けれど、タイラーメンはいくらでもすいすい呑める感じでした。

●『アヒルのスープ・ビーフン』
これは正直に言ってハズレっぽく、鶏でも豚でもないダシが今一つで、
「なんとなく鴨南蛮の香りがする……」てな感じでした。いっそ刻みネギがどっさり入っていたらよかったかもなあ。

●『牛筋煮こみラーメン』
スープの見た目もとろっとした醤油色で、ナンプラーと砂糖をドバドバぶっかけると、これがまた独特の濃厚さ。
最終的には甘すぎてスープはとても飲み干せないのですが、麺とからめてつまみにするにはなかなかのものでした。もっと若い胃袋だったらさぞ美味かったであろう。

●『タイ風ラーメン』
結局、最初に食ったこのラーメンがいちばん美味かった! スープはあっさりした白色で、これに砂糖やら唐辛子やらナンプラーをぶっかけるとほんとうになお美味くなりました。具は「なんか魚のすり身が浮かんで」おり、もやしがどっさりで、やっぱりつまみにはいい感じでした。

とにかく、「砂糖をぶっかけたら美味くなる」ラーメン、というのは日本ではちょっと考えられないことで、噂には聞いていたましたが、
「そんなの美味いわけがねえだろうよ、おい」と思いこんでいたのに、実際に食べてみたら確かに美味かったのは感動でした。タイフードフェスティバルは毎年恒例らしいので、来年はみんなで来たいなあ、とつくづく思いました。

この取材のあいだ、ずーっと、カメラマン常務の野田が一枚も写真を撮らないので、わたしは不審に思って尋ねました。

田原 「なんで写真撮らないの? いちおう取材なんだからこのラーメンとか、おれが飲んだり食ったりしているところ撮りなよ?」
野田 「うん、でも、今日、『カメラ持ってきてない』んだ」
田原 「……そう、か……」
野田 「昨日あらかた撮ったから、今日はおれ呑むだけね。ああ、美味いねえ、昼の酒は!
 おっ、ビールなくなったな、おれ買ってくるわ!」
田原 「よろしく……」

というわけで、今回アップされた写真は野田が「前日の土曜日」に撮ったものなのです。
なので、写真の「天気は晴れている」し、わたしを含めて「誰も写真に写っていません」。
わたしはそのときつくづく思いました。
「ああ、15年付き合って初めてわかった、この男には、『行動力はやたらあっても企画力はまるでないなあ」……と。


東京メンクイ党第二回に「不安ながら」つづく